分野の壁をどう超える? ~T-GExのすすめ~【イベント報告「令和5年度 研究成果エキシビション」】
あらゆる研究分野において学際研究の重要性が高まっています。そこで乗り越えなければならないのが「分野の壁」。この論点をテーマに、T-GEx(※)の取組みとして、「令和5年度 研究成果エキシビション―分野の壁を超える―」が開催されました。2名の招聘講師による特別講演およびT-GEx採択研究者によるポスター発表が行われ、会場では活発な議論が交わされました。
※世界的課題を解決する知の「開拓者」育成事業(T-GEx)
東海圏の学術機関や企業から選ばれた新進気鋭の若手研究者たちが集まる研究支援・人材育成プログラム。研究環境整備や研究費の支援が行われ、異分野・異文化コミュニケーションやマネジメントといったスキル向上のプログラムが多数設けられています。
https://www.t-gex.nagoya-u.ac.jp/
開催場所:名古屋大学 野依記念学術交流館
●特別講演1―探究心と好奇心が導く分野横断とイノベーション
上村 想太郎 氏(東京大学)
上村さんがメンバーとして加わった「Intelligent Image-Activated Cell Sorter」の開発では、その論文に掲載される関係者はなんと51名。様々な専門分野の先端技術を結集することにより実現しました。
Intelligent image-activated cell sorter の概要
Intelligent Image-Activated Cell Sorter の運用
上村さんは、分野というよりも自身の探究したいことを軸にしつつ、様々な分野の研究者と交流することで学際研究を成立させてきました。このスタンスの原点は、博士研究員時代までさかのぼります。
当時、上村さんは、1997年ノーベル物理学賞受賞者のスティーブン・チュー氏のもとで研究を行っていました。チュー氏は物理学だけでなく、生物学、地球温暖化問題、さらには政治の分野でも活躍しています。分野の変わり目では、新聞、科学雑誌を読みあさり、なにが大事でなにが大事でないか、今なにが問題かを数多くの研究者と話して学んだそうです。
上村さんは分野を超えることに対して、「分野を変えようとして変えたのではなく、気づいたら変わっていた、という考え方が自然なのだと思います」と話しました。
上村 想太郎 氏
●特別講演2―専門バカになろう大山 泰宏 氏(放送大学)
「ここでの『バカになる』には2つの意味があります」
1つ目は、自らの専門を研ぎ澄ませること。そして2つ目は、自らの専門以外はまるで知らないことに気づくことです。
たとえば哲学者デカルトは、当時の知識を一通り学んだのち自身の無知を悟り、書を捨て旅に出ます。デカルトの生涯を引用しながら大山さんは、「本当に私はわかっているのかということを問いかけつつ、多様な人たちと共同していく。そこにひとつ、専門の壁をこえるヒントがあるのではないでしょうか」と話しました。
大山 泰宏 氏
心理臨床学が専門の大山さんご自身も40歳のころ、「細胞のすみずみまで入れ替えてしまわなければ、今後研究者としての成長はない」と危機感を持ったそうです。その後、アメリカのハーバード大学やフランスの第8大学、メキシコのプエブラアメリカ大学といった海外の大学で研究や教育に携わりました。「やむにやまれぬ思いで飛び込んで培われたなにかが、ものすごく大きな力になっている」と話しました。
●ポスター発表
特別講演の後、ポスター発表会場には多くの参加者が集まり、最先端の研究を前に多くの議論が交わされました。
ポスター発表会場のようす
名古屋大学高等研究院に所属する研究者も活躍中です。以下、一部の研究者にはなりますが、少しご様子をご紹介します。
BELLEGARDE Fanny 氏(名古屋大学大学院 生命農学研究科 / 高等研究院 特任助教)
・ポスター発表タイトル「Understand mechanisms of plant adaptation to nutritional stress to stabilize crop performance while reducing fertilization.」
・(筆者から一言)植物に備わっている、過去に一度経験した水分不足や栄養不足といったストレスを“記憶”するというメカニズムの研究。次に同じストレスにさらされた際、経験がない植物よりもうまく対処するケースがあるそうです。現在、エピジェネティクスなどの手法を使い検討を進めています。農薬や肥料に加え、植物の成長を助ける第三の選択肢が農業で使えるようになるかも、とワクワクしました!
辻河 高陽 氏(名古屋大学大学院 医学系研究科 / 高等研究院 特任助教)
・ポスター発表タイトル「神経筋疾患の小児発症と高齢発症をつなぐ分子病態の解明」
・(筆者から一言)本来、小児で発症する遺伝子疾患が、なぜか高齢者になるまで発症しない臨床ケースを見つけたことから始まった研究。対象となる遺伝子異常を高齢になるまで抑え込む分子機構があるのではないかと、様々な観点からアプローチしています。臨床と基礎研究が一体となった着眼点が興味深く、将来、治療の選択肢が広がることを願います。
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※なお、学内限定公募として、令和6年度T-GExフェローの公募を行っております。応募締め切りは2024/1/9(火)17:00までとなります。ぜひご応募ください。
詳しくはコチラ。
※世界的課題を解決する知の「開拓者」育成事業(T-GEx)
https://www.t-gex.nagoya-u.ac.jp/
(文:綾塚達郎)