膝軟骨の固さが細胞の分子応答を変える?“長寿タンパク質” α-Klothoと変形性関節症の関係性が明らかに【YLC】【飯島弘貴先生】
多くの高齢者を悩ませる変形性膝関節症。年を重ねるにつれ、膝の軟骨が擦り減り、膝の痛みや変形の原因となります。その発症メカニズムには多くの謎が残されており、根治が難しい病気として知られています。
今回、飯島弘貴YLC特任助教らの研究グループは、一連の謎の解明を大きく前進させました。本結果は今後のさらなる研究の土台となるだけでなく、治療法の確立に向けた大きな一歩となります。
これまでにわかっていたことは、
1,加齢とともに軟骨が固くなる2,加齢に伴い軟骨をつくる細胞の老化や機能低下が起こる
という2つがありました。
今まで両者は独立して研究されていました。この2つの関係性はわかっていなかったのです。今回、様々な手法を通して、α-Klotho(αクロトー)という仲介役の存在が明らかになりました。
”長寿タンパク質”の異名をもつ、α-Klotho(αクロトー)。身体の様々な組織で働くタンパク質で、抗老化作用を持っています。体の設計図であるDNAにこのタンパク質の作り方が刻まれており、これに従って細胞たちはせっせと作り出しています。
ところが、膝の軟骨が固くなると、日常的な動作による振動がより大きく細胞に伝わります。すると、このタンパク質のレシピに、”作成禁止のシグナル”がたくさん貼られてしまうというのです。細胞たちは”長寿タンパク質”、α-Klothoを十分に作らなくなります。これが、「軟骨をつくる細胞の老化や機能低下」の原因となっていました。
ここまで一見簡単なように書きましたが、飯島先生ら研究グループがすごいのは、組織の固さとα-Klothoを紐づけたところにあるのではないでしょうか。
そもそも、膨大な種類のタンパク質やその合成の仕組みを読み解くだけでも大変です。今回はさらに、そうした生物化学的な観点に、膝軟骨の物理特性の観点も組み合わせています。組織工学、ゲノミクス、システム生物学など、幅広い知見と柔軟な発想が必要となります。
飯島先生は、米国メディアからの取材に対し、次のように話しています。
「これらの結果は、加齢に伴う組織の硬化と変形性関節症のリスクとの関連性を理解するという点で、この分野にとって重要かつ説得力のある新しい戦略を提供すると思います」(引用元:PRESS-RELEASE January 10, 2023, Spaulding Rehabilitation Network (Harvard Medical School))
メカニズムが詳細に明らかになるほど研究や治療法の選択肢が広くなります。組織が固くなるのは膝の軟骨だけではないため、他の臓器にも研究が応用される可能性があります。また、たとえば、”作成禁止のシグナル”を防ぐ薬などが今後開発されるとすれば、年を重ねても、細胞の老化や機能低下を抑えることができるかもしれません。今後の研究の発展に期待が膨らみます。
詳しくは、名古屋大学 研究成果発信サイトをご覧ください。
また、上記以外にも多数のメディアに掲載されております。ぜひご覧ください!
●出版論文:Nature Communications「Age-related matrix stiffening epigenetically regulates α-Klotho expression and compromises chondrocyte integrity」
●論文紹介:日本の研究.com「加齢に伴い硬くなった関節軟骨が長寿タンパク質を抑制 ~変形性関節症の病態解明や治療法開発に光~」
●取材記事:マイナビニュース「名大などが変形性膝関節症の発症メカニズムを解明、病態解明や治療法開発に期待」
●取材記事:中日新聞「変形性膝関節症 治療の手掛かりに 名古屋大など発症のメカニズム解明」
●取材記事(英語):HARVARD MEDICAL SCHOOL「Study Uncovers Why Some Joints Stiffen With Age」
●取材記事(英語):EurekAlert!「New mechanism uncovered behind osteoarthritis could inform new treatments」
(他、掲載メディア多数)
(文:綾塚達郎)