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T-GExのすすめ(イベント報告:「令和4年度 研究成果エキシビション」)

2022.11.30
お知らせ
#研究推進

新進気鋭の若手研究者たちが集まるプログラム、T-GEx。
研究環境整備や研究費の支援が充実し、異分野・異文化コミュニケーションやマネジメントといったスキル向上プログラムも多数設けられています。

※世界的課題を解決する知の「開拓者」育成事業(T-GEx)
https://www.t-gex.nagoya-u.ac.jp/

2022年11月7日、事業の取り組みの一環として、「令和4年度 研究成果エキシビション―“技術”アセットを有効活用した今後の産学連携」が開催されました。

1. T-Gex野依記念館
(開催場所:名古屋大学 野依記念学術交流館)

特別講演およびT-GEx採択研究者によるポスター発表が行われ、会場は活発な議論が交わされました。

●特別講演1―基礎研究と製品開発のニーズとシーズ
岡田康志 氏(理化学研究所・東京大学)

細胞の中にはタンパク質がぎっしりと詰まっています。実に様々なタンパク質が体中を駆け巡り、1秒たりとも同じ状態にはなりません。

「生きて動くものが見たい」

ミクロな世界のダイナミックな動きに魅せられた岡田氏は、やがて世界最高のシャッター速度をもつ超解像蛍光顕微鏡を開発しました。

2. 岡田氏
(岡田康志 氏)

これまでの顕微鏡開発業界では生まれえなかった顕微鏡。その開発を成し遂げた裏には、自身が開発者だけでなく、顕微鏡ユーザーの一人であったことが大きいと言います。

「当時の業界では、分解能をいかに向上させるかが大きな論点になっていました。しかし、1回の撮影に時間がかかっていては、細胞のようすは大きく変わってしまう。自分にとって、撮影時間を短くすることも大切でした」

顕微鏡の開発者として、また、細胞生物学者として新しい道を切り拓いてきた岡田氏。新分野研究の創生に必要なものとは何か。

「たとえば共創という言葉がよく言われますが、違う分野の研究者がただ一緒にいるだけではうまくいきません。お互いが相手の分野までしっかりと理解する必要があります。私は学生時代、医学部に所属していましたが、物理や数学も好きで、理学部の授業にも出席していました」

研究者一人の中に広がる複数領域。これこそが、研究者同士の深い交流の基盤となるのかもしれません。

●特別講演2―「裏」から眺めた人工知能ブーム 現在と近未来
井手剛 氏(IBM T.J. Watson Research Center)

―人間がAIに指図される時代がくる。

まことしやかに語られていたAIの人間超越物語は、しかし現在、その影を潜めつつあります。あらゆる分野において、AIはもはや無くてはならない存在。一方で、それが「万能な水晶玉」となる楽観論には限界があると井手氏は指摘します。

3. 井手 氏
(井手剛 氏)

これまでに数度繰り返されてきたAIブーム。その先行例に、「IBM Watson Health」があります。膨大な知識を学習することで医療応用を目指した事業ですが、2022年、売却が決定されました。「IBM Watson Health」は、たとえば、「こうした症状の場合、○○という病気です」といったような診断ができる、膨大な知識とif-thenのルールを基本としたAIによるコンピュータシステムです。

「しかし、世界という本は、if-thenルールの言葉では書かれてはいませんでした」

人間が明示的にルール化できる領域や、人間が何かの形で系統的にデータ化できる領域までは、こうしたシステムがある程度得意とする領域でした。一方で、それら領域の周縁には、人間が断片的にしか理解していない膨大な領域があり、そこはAIには手に余る領域でした。

機械学習や深層学習の開発が進み、音声や言語、画像の処理を始めとした多くの領域で今や無くてはならないAI。しかし、それが得意とする領域をしっかりと把握することが、今後のAI活用において肝になるのでしょう。

●ポスター発表

特別講演の後、ポスター発表会場には多くの参加者が集まり、最先端の研究を前に多くの議論が交わされました。名古屋大学高等研究院に所属する研究者も活躍中です。以下、一部の研究者にはなりますが、少しご様子ご紹介します。

4. ポスター会場
(ポスター発表会場のようす)

5. 萩尾先生
萩尾華子 氏

(名古屋大学 大学院生命農学研究科 / 高等研究院 特任助教)
・ポスター発表タイトル
「マハゼの大脳内高次視覚回路の解明とウナギ仔魚の餌開発に向けた感覚器や脳形態の調査」
・(筆者から一言)
魚にはどのように世界が見えているのか?脳内視神経回路の基礎的な詳細研究からウナギ養殖への応用まで、幅広くかつ国際的な研究テーマで今後の展望が楽しみです!

6. 横井先生
横井暁 氏
(名古屋大学 医学部附属病院 産科婦人科 / 高等研究院 助教)
・ポスター発表タイトル
「EV解析による女性のトータルヘルスケア課題解決」
・(筆者から一言)
細胞外小胞(EV)は、臓器のようすを教えてくれるメッセンジャー。癌の早期発見や子宮状態のチェックなど幅広い応用可能性に期待が膨らみました!

7. Matthew先生
Matthew Paul Su 氏
(名古屋大学 大学院理学研究科 / 高等研究院 特任助教)
・ポスター発表タイトル
「Elucidating the Aedes aegypti molecular circadian clock to develop new tools for mosquito control」
・(筆者から一言)
身近な蚊の聴覚や概日リズムの仕組みが少しずつ解き明かされていく様子が興味深いです。蚊の生態を利用した制御の選択肢が広がると、もっとサステナブルな蚊の対策が可能に!?

8. 飯嶋先生
飯嶋弘貴 氏

(名古屋大学 大学院医学系研究科 / 高等研究院 特任助教)
・ポスター発表タイトル
「”Exercise as a Rejuvenative Medicine”を支えるサイエンスへの挑戦」
・(筆者から一言)
加齢とともに増える変形性関節症に対する、臨床現場の知見と細胞生物学的なアプローチを組み合わせた研究スタイルは世界でも先駆的。新しい学際的研究の可能性、とても興味深いです!

※なお、学内限定公募として、令和5年度T-GExフェローの公募が始まりました。応募締め切りは2023年1月20日(金)17:00までとなります。ぜひご参加ください。
詳しくはこちら。
https://www.t-gex.nagoya-u.ac.jp/information/632.html

※世界的課題を解決する知の「開拓者」育成事業(T-GEx)
https://www.t-gex.nagoya-u.ac.jp/

(文:綾塚達郎)